ヨーロッパコンサートツアーレポート 2014年3月3日〜4月9日 オランダ・ドイツ・ベルギー
1999年、天鼓が初めてのヨーロッパツアーをおこなって以来、8回目のヨーロッパツアーとなった2014年。オランダを中心にベルギー、ドイツをまわる約1ヶ月。
オランダはロッテルダム近郊のロッジメントに住み、そこからコンサートが行われるオランダ全土、ベルギー、ドイツへと繰り出していく。
初期のヨーロッパコンサートツアーでは、日本からの和太鼓グループが来るということで興味半分観に行ってみようという方々が大半だったのに対し、8回目のツアーともなると、日本の伝統楽器のコンサートという枠組みを超えて、「TENKO」というエンタテイメント和太鼓ショーとしてヨーロッパの聴衆に認められてきた感がある。
ヨーロッパに根付いた天鼓ファンが連日、会場を超満員にする。
年々進化を続ける「TENKO」のそのどこにもない唯一無二のステージは、今回のツアーでも全会場でスタンディングオベーションを巻き起こした。
そんなヨーロッパの劇場には遊び心と歴史が同居する。
舞台裏の壁には決まって、そこで公演したアーティストたちのサインやメッセージが残されている。
何度も訪れている劇場には天鼓のサインやメッセージが既にあるのを見つけたり、そこに新たに今年のメッセージを書き加えたり、他のアーティストのメッセージを眺めたりするのもヨーロッパの劇場を訪れる醍醐味の一つだ。
ツアー中日ごろ、ベルギーはアントワープ、De Romaという歴史ある劇場で公演したときのこと。
様々な著名アーティストも公演したこの由緒ある会場は劇場プロセニアムが石のようなものでできており、音がとてもよく響く。
劇場全体に響き渡る和太鼓の重低音に会場のボルテージも最高に達した最後の曲。
その途中、演奏しているメンバーは何か違和感を感じた。
上から何かがパラパラと落ちてくる。演奏途中、さりげなく落ちたものをみるとあきらかに壁のようなもの。
状況を理解するのに時間はさほどかからなかった。
落ちてくるのは劇場の天井。
太鼓の振動で天井が崩れはじめていたのだ。
そこからその曲が終わるまでの5分間が1時間にも2時間にも感じた。
幸い大きく崩れることはなく、大スタンディングオベーションの中終演できたのだが、あれは天井だったのか、それともただの埃だったのか。
いずれにしても歴史あるヨーロッパの劇場が、これまで体験したことのない和太鼓というアコースティックな重低音に触れたことで起こり得たヨーロッパならではの経験だった。
その夜に、安堵と程よい疲労感の中で飲んだベルギービールは格別だった。
ヨーロッパの劇場では開演時刻が日本よりかなり遅い。だいたい20時ごろに開演するのが一般的で、終演は22時すぎ。
撤収・搬出を終えるといつもだいたい23時半ごろになる。そこからディナーが始まる。
しかも日本と異なり、ヨーロッパの劇場裏には必ずアーティストが食事できるスペースが存在する。
天鼓のツアーには専属のシェフの方がずっと同行して下さっており、終演後にはいつもあたたかい美味しい料理の数々が私たちを待ってくれている。
それが何よりの楽しみだったし、僕たちの公演中その厨房でディナーを作って下さっているものだから、楽屋周辺には何とも美味しそうな匂いが本番中に駆け巡る。
これがよくない!本番しながらついつい「あ!今日はパスタだ!」などと雑念がよぎりまくる。
そして終演後、どんなに遅くなろうとアーティストが帰るまで劇場は閉まらない。
ディナーを食べた後、劇場を出るのはだいたいいつも26時頃になるにも関わらずだ。
ヨーロッパの劇場はアーティストの最大限の敬意を払う。それだけに作品の善し悪しははっきり言うし、良くなかったものには次のチャンスはない。
天鼓もそんな温かくも厳しいヨーロッパのお客様、そして劇場に育てられてきた。
そんな8回目となるヨーロッパツアー中、ヨーロッパにおける天鼓の150公演目の節目の公演を迎えた。場所は天鼓のホームシアターといっても過言ではないオランダ・ロッテルダムのニュールクソールシアター。
僕自身1999年からツアーに参加させていただいていることもあり、150公演もヨーロッパでさせていただけていることが感慨深く、さらにこのような記念すべき公演を素晴らしい劇場で迎えさせてもらえることに、現地スタッフ・先生方・諸先輩方、メンバーにただひたすら感謝です。
和太鼓の文化も最近はヨーロッパにおいても急速に広まっている。
ワークショップという形で一般の方、そして各国の和太鼓チームに指導に行かせていただく機会も年を経るごとに増えてきている。
ここ何年かベルギーやドイツのグループに和太鼓を教えにいかせていただいているのだが、今回のツアー中も、ベルギーにて2回のワークショップをさせてもらった。
彼らの和太鼓に取り組む姿勢は本当に真っすぐで、こちらも大きな刺激を受ける。
すぐに言葉で会話できなくても、音で会話できる。「打てば響く」和太鼓の素晴らしさを改めて感じるとともに、日本から遠くはなれたヨーロッパにこんなにも和太鼓を好きになってくれている人たちがいるということが、とてつもなく嬉しい。
そして公演の合間、観光で訪れるヨーロッパの街並み、教会、建造物はどこをみても絵になる。それぞれの建造物にはそれぞれの歴史や物語があり、ヨーロッパの乾いた空気の中で観るものに語りかける。
甘い誘惑の手を差し伸べてくるヨーロッパの食べ物たち。
これらの誘惑に勝つのは至難の業である。
食べ物を通じて、文化を通じて、そして和太鼓を通じて、こんなにも国を超えて理解し合えることがある。共感できることがある。
そしてお互いを尊敬し合うことができる。
和太鼓という楽器、音楽を通じてたくさんの可能性、繋がり、ご縁を感じることができていることに幸せを感じつつ、今後のヨーロッパ、そして世界において和太鼓に求められるもの、文化に求められるもの、日本人に求められるものは何なのか、を色々感じ得るツアーとなった。
ヨーロッパの悠久の歴史に比べれば、和太鼓が舞台芸術となった歴史はまだ始まったばかり。
ここから和太鼓の可能性が試される。楽しみで仕方ない!
坂ノ上 アキラ